「ゼロカロリー理論」って知ってますか。
そう、僕も大好きサンドウィッチマン伊達さんが提唱する、斬新かつ画期的なトンデモ理論ですね。
カロリーは真ん中に集束する傾向があり、ドーナツのように中心が空洞になっているものはカロリーゼロ。
カロリーは熱に弱いため、油の温度に耐えられない。よって揚げ物はカロリーゼロ。
カステラはぎゅっとすればカロリーゼロ。空気中にふわっとカロリーが逃げていく。
駅弁にはカロリーがあるが、新幹線に乗りながら食べれば、新幹線の速度にカロリーが付いてこれずカロリーゼロ。
凄すぎる。ダイエットなんて簡単じゃないか。
こんばんは、おはようございますの鯖です。よろしくお願いします。
ぶっちゃけ減量も増量も短期間で行うのは非常にしんどいものだと思いますが、ヴィゴ・モーテンセンがえげつない増量をして撮影に臨んだ「グリーンブック」を観てきました。
グリーンブック
映画ランク:S+
予告編はこちら
原題:"Green Book" 監督:ピーター・ファレリー 脚本:ニック・バレロンガ 製作:ジム・バーク/ニック・バレロンガ 出演:ヴィゴ・モーテンセン/マハーシャラ・アリ
作品のジャンルはこんな感じ。
アクション ☆☆☆☆☆ ドラマチック ★★★★★ コメディ ★★★☆☆ ホラー ☆☆☆☆☆ グロテスク ☆☆☆☆☆ ミステリー ☆☆☆☆☆
■あらすじ
有色人種の一般公共施設の利用を制限した法律、「ジム・クロウ法」が適用されていた時代のアメリが舞台。
トニー・”リップ”・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)は職場のナイトクラブが改装となるため、その間の食い扶持を稼ぐため、職を探していた。
そこに舞い込んできた仕事は黒人ピアノ奏者ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)のドライバー。
黒人差別の概念を払拭できていないトニーにとって、長期にわたるこの仕事はノリ気ではなかったが、給料の良さや家計の厳しさから仕事を受けることを決断。
大食いで口先だけが取り柄の荒くれもの白人と、天才的な演奏技術と教養を兼ね備えた黒人の8週間の旅が始まった。
※ここからネタバレを含みます
■解説/ウラ話
実話との違いについて
- シャーリーが実際は結構ナイトクラブとかでも演奏していたこと
- ツアーは8週間なんてものじゃなく、実際は約1年半にも及ぶもっと長期間のものだったこと
もっといくらでも実話と違うことはあるでしょうけど、これらが映画と実話との大きな違いのようです。
逆に
- トニーは黒人差別主義者だったが、ツアー後は子供たちに『人類はみな平等だ』と言い聞かせるほどに心を入れ替えたこと
- トニーの手紙をシャーリーが手直ししていたこと
- シャーリーがカーネギーホールの上に住んでいたこと
- トニーが警官をメメタァし、シャーリーがロバート・ケネディに電話をかけたこと
- シャーリーがどうやら同性愛者であったこと
は事実とのこと。
ちなみに映画では触れられてませんでしたが、トニー・リップはナイトクラブの仕事で得た交友関係もあり、「ゴッドファーザー
脚本家について
本作にはトニーの実子、ニック・バレロンガが脚本&製作に携わっています。
実際にトニーが妻に送った手紙も資料として参考にしたとのこと。
■メインキャスト2人のハンパない演技力と役作り
「ロード・オブ・ザ・リング
本作では、それぞれの代表作の役柄とは真逆のキャラクターを演じています。
アラゴルン:物静かで優しく、知力と武力を兼ね備えた人格者。
トニー:詐欺まがいの悪知恵やギャンブルで金を稼ぎ、気に食わないヤツは拳で黙らせる。
フアン:コカインの売人達を取り仕切るギャング(ただし優しい)
シャーリー:フライドチキンを素手で食べることにさえ抵抗を感じるほど育ちがよく、常に背筋をピンと伸ばした品格のある人物。生真面目な性格で、ピアノの演奏後以外はめったに笑うこともない。
話し方のアクセントから視線の流し方、指先の使い方まで卓越された2人の演技力は、もはや芸術の域に達していると言っても過言ではないでしょう。
マハーシャラ・アリのアカデミー&ゴールデングローブ賞の受賞に関しては、正直『そりゃあこの演技じゃ当然の結果だよね』といった感じ。
ヴィゴ・モーテンセンのアカデミー賞やゴールデングローブ賞の主演男優賞は叶いませんでしたが、正直どちらも受賞していてもおかしくないレベルと感じました。
■典型的な凸凹コンビのロードムービーとしての魅力
根底にあるテーマは非常に重く、今なお完全に改善されていない問題ではありますが、比較的長尺であるのにもかからわらず本作を心地よく鑑賞できるのは、凸凹コンビのロードムービーという側面を持っているから。
- 馬が合わない2人がひょんなことから旅をする
- もちろん衝突もする
- 互いの長所や短所を受け入れ、補う過程で問題を解決していく
- 最後には、2人の間にはかけがえのない絆が生まれる
何ともわかりやすい単純明快なストーリー。
そして終着点が予想できているからこそ、安心して鑑賞することができる。
メロディは至極キャッチーなのに、実は複雑なコード進行を使っている楽曲のような、奥深さと軽快さを兼ね合わせた、極上の作品に仕上がっています。
■大袈裟過ぎない優しさと勇気を振り絞った甘え
人種差別をテーマとして取り扱った作品には、黒人の救世主的存在となる白人が登場することが珍しくありません。
本作においてはトニー・リップとその家族がそれに該当することになると思いますが、彼らが典型的な救世主像の枠組みからは外れている点も大袈裟過ぎない表現につながり、視聴者が作品を素直に受け入れられる要因となっていると思います。
- トニー・リップが家を飛び出しシャーリーを迎えに行く
- トニーの家族も自然にシャーリーを受け入れる
のような描写にしたらもっとお涙頂戴、オスカー大喜びの作品になっていたことは間違いないでしょう。
しかし、実際は
- シャーリーが小さなプライドを捨て、勇気を出してトニーの家へ引き返す
- トニーの家族は混乱するも、「彼の席を空けろ」と今できる精一杯の寛容さで迎える
といった表現に留まっています。
また、とても印象的だったのは白人と黒人が握手をするシーンはとても多いのに、ハグをするシーンはたった2回しかないこと。(記憶が正しければ)
トニーとシャーリー、トニーの奥さんとシャーリーのハグがその2回なんですが、それまで数多の形だけの白人との握手を経験してきたシャーリーにとって、このたった2回のハグはどんなに嬉しく意味があることか。
彼らの互いの歩み寄りは、アメリカ全体からしたらほんの些細なことかもしれませんが、こういった小さな絆の積み重ねによって今の世の中がある。
そして、まだまだ人種差別はなくなってはいないし、完全に取り去ることなんて不可能なのかもしれませんが、彼らのように『自分たちができることをこれからも少しずつ積み上げていく』ことが大事であると、この作品は教えてくれています。
■シャーリーの孤独を描く巧みな技術
彼の遺族からしたらたまったもんじゃないのかもしれませんが、シャーリーの孤独を描いたシーンのマハーシャラ・アリの演技がズバ抜けてよかったという話がしたい。したくてたまらない。
トニーが引き抜かれそうになったシーン
ツアー中、トニーがギャングのような知人と再会し、『黒人の運転手よりもっと稼ぎのいい仕事を紹介してやる』と引き抜かれそうになるシーン。
シャーリーは互いを知り、少しだけ孤独を忘れさせてくれるトニーという存在をやっと見つけたのに、その友人がまた自分のもとから去ってしまうかもしれない。
昨晩トニーと口論になったこともあり、そんな不安にかられたシャーリーはバーに飲みに行くトニーを待ち伏せます。
いつから部屋の前で待ってたの?
って感じで、もうぶっちゃけそこら辺の女子より女々しくて自信のなさげなシャーリーなんですが、威厳のある態度を無理矢理保ちつつ、
『君を正式なツアーマネージャーに任命したい。責任も重くなるが、給料も増える。(訳:頼む!行かないで!お金ならもっとあげるから!)』
みたいな。
トニーはそんなシャーリーの気持ちを見透かすかのように
『契約は週100ドルって言っただろ。最後まで仕事は続ける。彼らにも同じように伝えるよ。』
とナイスガイっぷりを見せつけます。
シャーリーもここでプライドを捨て、昨晩の醜態を詫びるのですが、バーに向かうトニーの背中にシャーリーが指先を少し持ち上げる描写があるんですね。
『じゃあまた明日』のような気さくな挨拶をしようとしたように個人的には見えたのですが、たった数秒の指先の動きだけで、視聴者に2人の中に友情が芽生えたことを伝える超名演技!
これマハーシャラ・アリ自身のアドリブだとしたら超絶凄いし、演出家の指示だとしたら、それはそれであっぱれな名采配。
クリスマスの夜にお手伝いさんを帰らすシーン
『今日は早く帰って家族と過ごせコラ』的なことをお手伝いさんに言ってあげて、豪華な部屋に1人きりとなったシャーリー。
数多くの美術品に囲まれた部屋で、自身のプライドの象徴であるかのような玉座には座ることなく、ただそれを見つめるだけ。
あの一連の何とも言えないマハーシャラ・アリの表情と、くだらないプライドは捨て、完全に雇用関係から友人へと変化した2人の関係が表現された描写が、これまた素晴らしい。
■散りばめられた布石は全部回収
本作は布石や対比をものすご~く上手に使っています。
・保安官
ゴミクズ保安官の後に出会う、超絶親切な保安官。時代が少しずつ変わっていっていることを暗示。
・翡翠石
口から出まかせで『御守りだ』と言った翡翠石が、本当に御守り替わりとして使われる(効果は知らん)。
・トニーの拳銃
ブラフだと思っていたトニーの拳銃だが、実は本当に所持していて、2人の身を護ることになる。
・フライドチキン
『黒人はフライドチキン好きだろ』と言うトミーに対し、シャーリーが『君は偏見が過ぎる』と諭していたが、上流階級との食事でもシャーリーのためと、フライドチキンが振る舞われる。
・バーでの演奏
『ピアノの上にグラスを置くだなんて』という発言の後、本当にバーのピアノの上に置いてあったグラスを下してから演奏するシャーリーと、それを見て微笑むトニー。
時にはコメディ要素として、時にはドラマチックな要素として、この布石・対比のバラ撒き&回収が非常にうまく機能しています。
■世間の評価
アカデミー賞の作品賞を見事受賞した本作ですが、海外の評論家からの評価は2分しており、苦言を呈す人も少なくないとか。
- トニー・リップが黒人に対する白人救世主として誇張されすぎている
- まるで現代では人種差別がないかのように描かれている
批判されている要素としては、上記のような点。
そしてシャーリーの遺族からは、
「シャーリーと家族間の関係について誤解を招くような解釈をしている」
と批判されています。
評論家や家族だけでなく、同年のアカデミー賞にノミネートされていた作品の関係者も本作の受賞に不満をあらわにしていたとのこと…。
遺族が言うのはしょうがないとして、他作品の関係者のような影響力のある人が、アカデミー賞自体ではなく、1つの賞を争った作品を名指しで批判するのは、あまりよろしくないですよね。(気持ちはすごくわかるけど)
『グリーンブック』の評価まとめ
ここまでベタ褒めなことからわかるように、本作は大傑作であると強く主張していきたいです。
実話をもとにした作品と言えどもあくまで映画なので、本人たちのことを知っている人からしたら誇張されている部分も少なからずあるでしょうし、確かに偽善のように感じる人もいることでしょう。
しかし、もし本作が偽善に満ち溢れていたとしても、ハイクオリティにエンターテインメント化された本作を観て、『黒人差別は愚かなことだ』と素直にインプットする若い白人の視聴者が1人でもいるかもしれない。
僕たち日本人としても、近隣のアジア人をはじめとした、『外国人を偏見の目や差別的観点で見るのはやめよう』と再確認する人もいることでしょう。
それだけで価値があり、本作が世界中で上映されていることに意味があると思います。
ハガレンでウィンリィパパも『やらない善よりやる偽善だ!』って言ってましたしね。
かゆい
うま