完全にやっちまった…
人間(ヒト)としての感覚が最大限に研ぎ澄まされ、自身の失態を細胞単位で悟る瞬間。
それは完全に寝すごしたとき。
アレ何で起きた瞬間に悟れるんですかね。
おはようございます、おはようございますの鯖です。よろしくお願いします。
早起きは感心だけど、今回紹介するのは90年も早く目覚めてしまった男が主役の映画。
パッセンジャー
映画ランク:B
予告編はこちら
原題:"Passengers" 監督:モルテン・ティルドゥム 脚本:ジョン・スペイツ 製作:ニール・H・モリッツ 出演:ジェニファー・ローレンス/クリス・プラット マイケル・シーン/ローレンス・フィッシュバーン
ジャンルとしてはSFヒューマンドラマといった感じ
アクション ★☆☆☆☆ ドラマチック ★★★★★ コメディ ☆☆☆☆☆ ホラー ☆☆☆☆☆ グロテスク ☆☆☆☆☆ ミステリー ☆☆☆☆☆
■あらすじ
舞台は近未来どころか、今より結構文明が発達してそうなめっちゃ未来。
「宇宙移民」という選択が一般化している世界で、5000人の人間を乗せた宇宙船「アヴァロン」は理想の惑星へと向かっていた。
目的地である惑星への移動は120年の歳月を必要とするため、当然乗客は「冬眠」状態であり、到着の4ヶ月前に目覚める手筈となっている。
しかし、ジム(クリス・プラット)はたった1人、冬眠マシンの故障により「到着まで残り90年」というタイミングで目覚めてしまった。
惑星への到着や他の乗客が目覚めるのは約90年後。
つまり残りの人生を超巨大な宇宙船の中、たった1人で過ごすことになってしまった。
どうして彼だけが目覚めてしまったのか!?
彼が心に秘める衝撃の真実とは!?
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーとしての仕事も残ってたり、恐竜の面倒も見なきゃなのに大丈夫かクリス・プラット…!!
ってお話。
※ここからネタバレが含まれます
■中盤からラストまでの流れ
超巨大な施設で1年以上1人きりで過ごすジム。
唯一の話相手はバーテンダーアンドロイドの「アーサー」。
このまま孤独に一生を終える…そんな現実に耐えきれなくなり限界を迎えようとしていたジムだったが、偶然眠っているオーロラ(ジェニファー・ローレンス)の姿を見て中二男子の夏休みくらい大興奮、彼女のことを調べるうちに恋に落ちてしまう。
長い葛藤の末、それが殺人に等しい絶対に許されない行為だと知っていながら、ジムは冬眠マシンをメメタァし、オーロラを起こしてしまう。
冬眠マシンの故障によって目覚めてしまったと思い込んでいるオーロラは、残酷な真実を知ることもなくジムに惹かれ始め、2人だけの世界でゴニョゴニョ。
しかし、その幸せも長くは続かず、とあることをきっかけにバーテンダーアンドロイドのアーサーが
お前のこと起こしたのジムなんですわ
と暴露。
真実を知ってしまったオーロラはジムを拒絶し、2人の関係は最悪に。
そんな中、甲板長(たぶん)のモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)もまた宇宙船の異常に伴い目覚め、ジムが目覚めてしまった理由や、宇宙船がヤバイ状態であることなどがどんどん判明。
生きていられると映画的にドラマチックさが損なわれるためか、説明役としての役目が終わった途端にモーフィアス死亡。
ジムとオーロラはなんとか宇宙船と乗客5000人の危機を救うことに成功、2人で残りの人生を歩むことを決断する。
約88年後、目覚めた宇宙船のクルー達が目にしたものは、ジムが植えた1本の木から力強く芽吹いた2人だけの楽園だった。
ってな感じ。
■良かった点
・出演者の普段見れない役どころが見れた点
クリス・プラットは普段ワイルドで活発な役、ジェニファー・ローレンスはパワフルで直感で行動する役が多いイメージですが、今回は2人とも真逆の役をこなしています。
クリスは物静かで手先が器用な理系タイプ、ジェニファーは利発な文系タイプを演じていてなんかとても新鮮。
・金銭や物で満たされない空虚について描いていた点
順調に移民が完了しても到着まで120年間眠りっぱなしってことは、もう家族にも友人にも一生会えないってことなんですよね。
『失うものは何もない』人から、オーロラみたいに『往復して250年後の地球を見たい』というような目的がある人まで様々でしょうが、今あるコミュニティを捨てることを決断した人間が今回だけで5000人もいるという事実。
加えてオーロラは友人にも恵まれていそうなのに、それでも埋まらない「何か」を求めてアバロンに乗り込んだっていう点には考えさせられたし、その埋まらない謎の空虚感にはすごく共感しました。
■残念だった点
・設定の甘さ
ジムが目覚めてしまった直後、
『いやさすがにこういうときの対策もしてるっしょ』
と奮闘するんですが、それがマジで対策ゼロ。
理由は
もう何回もフライトして不具合ゼロだから
っていうストロングスタイル。
人身売買でもなく、ある程度富裕層も乗せてるっぽいのに、さすがにコレはありえない。
地球と1通メールをやり取りするのに70年?くらい必要だったり、冬眠マシンの予備もなく(※後述)、クルーは交代制でもなく全員スヤァ…。
そしてバーテンダーアンドロイドはあんなに高性能なのに、メインフロアのコンシェルジュプログラムやその他重要そうな箇所のAIがみんなめっちゃ無能かつ無機質。
確かにバーテンダーはコミュ能力求められる職種ではあるけど、そこに高度な技術力を注いだ割に、肝心の危機管理系統などはなぜおざなりなのか…
これはさすがにリアリティに欠けてしまい、いきなり作品と視聴者側の距離を作ってしまう要因となってしまいました。
まぁ後述するアーサーの役目を考えた上でってことなのかもしれませんが…
・キャッチコピーと予告編について
予告編は日本版しか見てませんが、キャッチコピーも予告編も「ジムとオーロラが目覚めたのは運命」感盛り盛りなんですよね…
だからね、僕も思ってたんです。
『ジムは葛藤するもきっと欲望に打ち勝つ…たぶんジムもオーロラも宇宙船の危機を回避するために必要な知識を持っていて、偶然だと思っていた覚醒は、宇宙船が選抜した必然のものだった…っていう運命の出会い的なヤツだよね。うんうん、おじさんそういうの嫌いじゃないよ。』
って思ってたら
ジムが目覚めたのは偶然!
オーロラが目覚めたのはジムのエロスパワー!!
そしてもう一人偶然ウェイクアップ!
故障による偶然だったらもうちょっと一度に何人か起きるわ!
なんで単発ガチャなんだよ!!
チュートリアルガチャで引いたジムなんて、最低レアリティじゃねーか!
このキャッチコピーと予告のせいで、ジムがオーロラ無理矢理起こした時のドン引き感が余計増しちゃってるんですよねコレ。
■考察点
・なぜ作品の評価が悪いのか
キャッチコピーのとこでも触れたんですけどね。
鑑賞前における視聴者的には
『運命的に目覚めた2人のラブロマンス』
『2人が目覚めたのにはきっと使命的な理由がある』
きっと、こういった内容を想像したと思うんですよね。
しかし、実際のところはそうではない。
ジムだけが目覚めたのは偶然だったものの、オーロラはジムのエロスパワーによって目覚めた(語弊がある)ワケです。
このジムが孤独に耐えきれなかったシーンで、多くの視聴者がこの作品に感情移入できなくなってしまった感が否めないんですよね。
ジムはすごく葛藤して、すごく後悔もして、贖罪のためにすごく頑張るんですけど、それでも視聴者の中には赦せない人もいる。
なぜならもし自分が同じ境遇に置かれたら、同じ罪を犯してしまうことを心のどこかでわかっているからではないかと。
だからこそジムは自己犠牲に踏み出す必要がある。
視聴者の心を納得させて、罪悪感を払拭するためにも。
ここで、冬眠マシンについて触れますと。
予備の冬眠マシンというものはないのですが、なんやかんやしてるうちに1つだけ再度冬眠状態に戻れる方法(医療ポッド)が見つかります。
しかし使用できるのは1人だけ。
当然ジムはオーロラに使用するよう促すものの、オーロラは拒否し、2人で余生を過ごすことを選択。
めでたしめでたし。
じゃねーんだよ!!
特に哀愁を好む日本人的には!!!
もしジムが『健康状態の検査』とか適当な嘘をついてでもオーロラを冬眠させるとかして、
『毎日会いに来る』
このセリフを実現していればめっちゃ感動的な描写どかどか突っ込めたと思うんですよね。
オーロラだけが夢として見る2人の未来。
いや、しんどいんだけどね。
ジムからしたらめっちゃしんどいのだけれども。
ジムが意図的に罪を犯してしまうシナリオにしてしまったからには、その責任をジム同様に製作者側にも負ってもらう必要があるわけで。
ジムが罪を償えば、視聴者のモヤモヤも多少は晴れて、低評価のいくつかは覆すことができたはず。(※個人の感想です。)
残酷な意見を述べてるのは重々承知なんですが、2人だけが起きた世界で生きていったとしても、結局同時に寿命を迎えることはできないわけですし。
とある大ヒットミュージカル映画
人生を変えてくれた人と出会えても、必ずしもその先の人生を一緒に歩めるわけじゃない。
これは悲劇ではなくハッピーエンドの1つで、これもまた美しい結末なんだ。
っていうアレ!!!
アレをギブミー!!!!
してくれたらマシだったのでは…と。
・アーサーはなぜ秘密を漏らしてしまったのか
レビューとか考察ブログ見てると
約束破るとかアーサー無能すぎ
と感じている人多いようなんですが、僕はそうは思いません。
むしろアーサーはジムとの約束を頑なにずっと守っていました。
しかしオーロラとジムの『2人に秘密はない』という言葉を聞いて、刻まれたコードを書き換えてしまっただけなんですよね。
あのシーンのアーサーの表情をよく観察していると、
『覚悟はいいか?俺はできてる』
って明らかにスイッチを切り替えたのが見て取れると思います。
『秘密はない』→『あの秘密は解禁された』→『ジムがオーロラをどんなに思って葛藤していたかなどを伝えてあげよう』
といった感じで、『アレ?もしかしてストレスだった?』ってくらい今まで黙ってた分まぁべらべら喋っちゃうんですけども。
顧客の要望に応えるようプログラムされているであろうアンドロイドのアーサーに、人間の言葉に秘められたニュアンスまで読み取ることを求めるのはいささか酷ではないかな、と。
・ジム、オーロラ、アーサーの役割
状況と結末は結構違いますが、この「パッセンジャー」、どこか既視感のある話だと感じた人も多いでしょう。
そう、それは「失楽園」。
「パッセンジャー」と「失楽園」の登場人物はこんな感じで対比できます。
ジム=アダム
オーロラ=イヴ
アーサー=ヘビ
失楽園:ヘビに唆されイヴが「禁断の果実」を食べてしまったことにより、楽園から追放されてしまう。
パッセンジャー:アーサーがオーロラに真実を告げたことにより、2人の幸せが崩壊する。
そしてアーサーにはヘビと同じく足がない。
見事にマッチしてますよね。
人間の命に限りはあれど、ジムが植えた木は大きく成長し、オーロラが残した自伝は物語として後世に伝わっていくであろうことも踏まえ、「パッセンジャー」は未来SF型のもう1つの「失楽園」であると言っても過言ではないでしょう。
『パッセンジャー』の評価まとめ
こうやって書き起こしてみると考察点も多くていい材料が揃っているのに、いまいちうまく魅せられていないのは非常に勿体ない…。
やはり『締めと設定の作り込みが甘かったかな…』といったところ。
本国でのいろいろな媒体でも評価は芳しくなかったようですね。
ジェニファー・ローレンスのラブロマンスだったら、ぶっちゃけ断然「世界にひとつのプレイブック
かゆい
うま
■VOD/動画配信サービス
「パッセンジャー」が配信中のサービスはこちら(2019年4月現在)
※配信有無の詳細は各サービスをご確認ください。