初めてのサバゲ参加。
専門卒後に始めたアルバイトはデスクワーク。
運動の「う」の字もない生活を続けて早や10年。
胸に湧き上がる高揚感とは裏腹に、足はまるで棒のよう。
M4を抱える腕は重く、もはや照準を定めることさえままならない。
『せめてワンヒット…』
最後の力を振り絞り前に出した脚は、力強く蹴るはずだった地面に弄ばれ、M4を手放してしまうほどに派手に転んでしまっていた。
運動不足のツケを実感しつつ、M4を回収しようと手を伸ばす彼の瞳に映ったのは、愛銃ではなくこちらを見下ろす1人のオッサン。
マスク越しとは言え、見間違えるはずもない。
フィールドに足を踏み入れるそのときまで、初のサバゲ参戦にかける思いを共に語り合っていた同志。
半笑いで佇むオッサン、それは職場の上司S。
そして、Sの手にはかつての彼の恋人(M4)。
彼は幼少期のマラソン大会を思い出していた。
『一緒に走ろうね!』
そう言った友達は突如、黙ってスパートをかけた。
なぜなのか。
どうしていつも、どうしてみんな…
何も言わず、彼を置き去りにしていくのか。
ババッ…!
『…ヒット。』
こんにちは、おはようございますの鯖です。よろしくお願いします。
実話です。
彼(決して友達とは言えない知り合い)が言うには、自身のM4で撃たれたことへの屈辱と耳に残るあの発砲音のせいで、しばらく不眠症に陥ったとのこと。
そして、この出来事は彼にとって『二度とサバゲには行かない。』と心に誓うほどのトラウマだったようです。
拾った人の銃で撃つことがルール違反か否かは僕にはわかりません。
が、Sがクズであることはわかる。
そんなワケで、今回はそんなトラウマも吹っ飛ばせそうなほど、サバゲの魅力が詰まった小説をご紹介。
サバゲにGO! はじめてのサバイバルゲーム
■概要
著者:アサウラ
イラスト:赤井てら
レーベル:LINE文庫エッジ
僕がライトノベルを読むようになったきっかけ「ベン・トー」の著者である、アサウラ先生の最新作。
イラストは「デスニードラウンド」などでもアサウラ先生とコンビを組んでいる、赤井てら先生。
ここだけの話、 赤井てら先生の描く仕上がったマッチョは最高だぞ。
本作はサバゲに焦点を当てたアクション・コメディ作品って形になりますかね。
ライトノベルって括りになるのかもしれませんが、アサウラ先生の作品は文量・文質ともに良い意味で「ライト」じゃないので読み応えチョモランマ。
そのため、ライトノベルの文章苦手って人にも自信を持ってオススメできます。
遠征ラッシュも終わり、積まれていたタスクも一段落し、やっとこさ読むことができました。
■あらすじ
これといった趣味もなく、日々をなんとなく過ごしていた青年・貞夫と、その友人シノ。
出典:LINE Corporation
二人の青年がある日偶然立ち入ってしまったお店……エアガンショップ『大野公房』。
彼らを出迎える姉妹の店員、舞白菜花と璃良。彼女達に心惹かれるも、それ以上に店内に所狭しと並ぶ銃器の数々が、貞夫とシノの童心を強く強く刺激するのだった。
「んじゃあさ、そんなに撃ちまくりたいっていうんなら……いっそ明日、サバゲに行ってみたら? 」
普段の映画紹介では僕が適当かつ雑にあらすじをまとめてますが、本作に対しそんな適当なことはできないため公式から引用させてもらいました。
■サバゲの入門書かつ聖書(バイブル)
最初に書いておくと、僕はサバゲ未経験です。
そんな僕が本作を読んでいてまず思ったことは「これ1冊読み込めば、もうサバゲ参加できちゃうんじゃね?」ということ。
ド素人目線で本当に申し訳ないんですが、僕が前に投稿したジムマナーの記事のような、これさえ読んでいけば、初めて定例会に参加しても周りに不愉快な思いをさせずに済みそうなサバゲマナー本であると感じました。
解説部分は太字になっていてすぐ見つけられるし、ショップに行くときやいざサバゲに参戦!ってなったときに、「この本を持ってくだけでだいぶ心強いのでは?」ってくらいに説明が丁寧。
加えて、
玄人はこういう人もいる。でも、初心者ならこうするのがベター。
のように、今すぐは不要だけど慣れてきたら選択肢に入るもの、初心者でもマストなものなど、アサウラ先生の実体験を交えて事細かに解説されています。
こういう実体験っていうのホント大事だと思うんです。
筋トレばっか例に出して申し訳ないのだけれど、
セーフティバーなしでのベンチプレスは危ない。
というのと、
窒息死した事例もあるからセーフティバーなしでのベンチプレスは危ない。
じゃ、全然緊張感が違いますよね。
本物ではないにしろ“銃”であり、ケガをする可能性がある遊びであることは事実。
知らない人どうしが集まる中、みんなが楽しめて気持ちよく帰路につくためには、こういった実体験を交えたマナーの提示っていうのはすごく重要だと思います。
一方、経験者が読んだとしても『あ~それ分かるわ』っていうあるあるネタの宝庫だと思うので、未経験のチェリーからガチムチのプレイボーイまで、万人が楽しめる内容かと。
■他の作品では味わえない特色
アサウラ先生の著書にはどの作品にも共通する魅力があるんですよね。
・食事描写
アサウラ先生と言えばコレでしょう!
「ベン・トー」以降の作品は全て読了済ですが、どの作品にも必ず入っているのが食事の描写。
ファンからしたらこの統一性は本当に嬉しい。
そして何より描写が秀逸すぎて腹の虫が鳴るので、減量中のトレーニーはマジで注意。
本作においては、体内のエネルギーが枯渇している状態、そこにカロリーをぶち込むときの描写が本当にリアル。
作中の枯渇状況とは異なるけど、減量終了後の1食目って本当に涙が出そうになるんですが、そういった普段絶対に得られない感動が見事に表現されています。
その感動を実際に感じたい人は、今すぐサバゲか減量しようぜってことだね!
・意味深な言葉遊び
意味深というか言葉遊びというか
要は下ネタですね。
『いやいや別にそういう意味じゃないから』ってギリ言い逃れできる言の葉を紡いで、隙あらば下ネタ。
安心してください、何も下ネタの対象となるのは可愛い女の子だけではありません。
アサウラ先生の作品には大抵マッチョかゲイみ溢れる漢のどちらか(時には両方)が登場し、どっちかと言うとそっち系の下ネタの方が充実しています。
ちなみに今までで一番衝撃だったネタは
乾電池(意味深)。
・生々しさ
エアガンはもちろんのこと、サバゲを楽しむにあたって必要となってくる初期費用は、決して軽視できるものではない…ということが、本作を読んでいてよく思い知らされました。
サバゲを布教する、サバゲ人口を増やすためには正直そんなことゴニョゴニョっと濁しといた方が都合のいい部分だと思うんですが、
『こんなオバサンでもいいの?』
ってなくらい、軽率にエアガンを買おうとする人に向けて警告するかのように、何にどれだけの金がかかるか丁寧に節説明されています。
これらを敢えて先に提示してもらえることで、
興味を持ったはいいもののショップに足を運んで絶望するのを未然に防げると同時に、サバゲっていうものがこんなにハードルは高いけどそれを乗り越えたくなるほど楽しい遊びであることが、未経験の僕でも想像ができました。
自立した人間がただ買い物をするのか否かだけでこんなに惹きつけられたのは初めてです。(笑)
そして、生々しいという意味で他の作品でも共通しているのが、一動物として人間が描かれているように感じるという点。
人間は生きてるだけで汚れていくもので、サバゲなんて運動量の高い遊びをすれば男どもはもちろんのこと、作中の女の子も汗をかく。
汚れも温もりも、なんて言うかちゃんと生物としての、動物としての体温が感じられる描写がすごく印象的なんですよね。
極力ネタバレはしたくないのであまり詳しくは書けないけど、要はなんかエロい。
■鯖が勝手に感じたメッセージ性
・本気の趣味を持つことの素晴らしさ
- 仕事が楽しくて仕方がない
- 子どもの成長が生き甲斐
- 恋愛さえできれば幸せ
無趣味だとしても、上記のようなことで充実した人生だと思える人、空の青さに気づける人はそれはそれでいいことだと思います。
でも実際はそういう人ばかりではないですよね。
日々の疲れを癒そうとするだけで休日が過ぎてしまう生活に、疑問を抱いている人も少なくないはず。
何か夢中になれる趣味を持つこと、家族・仕事以外のコミュニティを持つことってすごく素晴らしいことだと思うし、そういった人の方が会話をしててすごく楽しい。
僕も自分が好きなコンテンツの会話になると口数が多くなる所謂オタク気質ですが、共通の趣味を持った人との会話って本当に楽しいんですよね。
それが広く浅くな趣味じゃなく、狭く深くとことんマニアックであればあるほど。
たとえ本作を読んだ後に『サバゲをやってみよう!』とは思わなかったとしても、少なくとも、本気の趣味を持つことがいかに素晴らしいかってことは感じるはず。
・なりたい自分を追求する魅力
- 勝っても楽しい負けても楽しい
- 紳士的
という言葉が並ぶように、サバゲという趣味の醍醐味は勝ち負けや他人との比較に準拠していないところにあるということが、ヒシヒシと伝わってきました。
- 性能
- 見た目
- プレイスタイル
- 身につけたときの感覚
限られた工数や予算を何にどれだけつぎ込むかは、自分がどうなりたいか次第。
皆と同じであることが美徳とされがちな現代の日本社会においては辛く感じる人もいるかもしれないけど、選択肢が無数にあるっていうのは、本来めちゃくちゃワクワクできることのはずですよね。
結果ももちろん大事だけど、好きなことを共有している人どうしだと、その過程にある努力や苦悩に共感でき、 そしてそのことがその人にとっていかに重要なことかも理解できますよね。
つまり、
効率や結果だけを見たときには単なるドキュメントだったものが、個性や過程を重要視することによって、勝っても負けてもそこには必ずストーリーが生まれるということ。
ダセェ銃で勝つのと、格好いい銃を抱えて負ける……果たしてどちらにロマンがあるだろうか。
出典:サバゲにGO! Page.4
冒頭のエアガン紹介にあるこの1文に全てが詰まっているのだと思います。
普段の生活において、“銃”以外の言葉に置き換えても同じことが言えるはず。
■「デスニードラウンド」とは
作中で度々出てくる「デスニードラウンド」。
もちろんモデルは、千葉に存在しているくせに東京だと言い張るストロングスタイルを貫き通す、某ネズミの王国ですね。
既に軽く触れましたが、このデスニードラウンドをタイトルに掲げた小説も発売されております。
本作同様、アサウラ先生と赤井てら先生のタッグ。
大人気マスコットキャラを相手取り、血反吐や臓物に塗れながら実弾でドンパチかましまくるっていうトンデモ作品。
笑いやアクションはもちろんのこと、グロあり、ハラハラ(主に著作権に関して)ありで個人的にイチオシの作品なので、ぜひみんなに読んでほしい。
もし続編が出たら絶対に買うし、クロエ・グレース・モレッツ主演とかでハリウッド実写化とかしたら面白いこと確実だと思うんですけど、いざ実現したとしたら
ハハッ!
って高笑いとともに、関係者が消されることは確実。
■作中に登場する映画
作中に出てくる映画紹介を。
僕は累計視聴数1660本を超えるくらい映画観てるんですけど、ニュースメーカーズは初めて聞きました…。
どっちも未鑑賞なので近いうちに観たいです。
『サバゲにGO!』の感想まとめ
唐突ですが、僕の推しは巨乳スナイパー菜花さん。
本作に限った話ではなく、小説や漫画、アニメの世界では魅力的な女性があらゆるコミュニティで登場し、多少やらしい目で見ても優しく接してくれますよね。
でも現実世界ではサバゲでも筋トレでもロクなことにならないので、
出会い目的で趣味を選択するのはやめましょう。
かゆい
うま